「今日こそはシロギスを釣るぞ」とリベンジに燃え、家事をササッと済ませて車を走らせた。 前回の釣行での「冷蔵庫のジャリメ弱りすぎ問題」 の反省を活かし、今回は途中の釣具屋に寄って、生きのいい新鮮なジャリメを買い足す計画だった。

ルンルン気分で釣具屋の自動ドアをくぐり、レジへ向かった――その瞬間だった。

緊急速報

店内にいた全員のスマートフォンから、あの大音量の「ピロリン!ピロリン!」という緊急速報のアラートがいっせいに鳴り響いた。

テレビの画面に目をやると、フィリピンでの大地震発生のニュース。 それに伴い、日本の沿岸部にも津波注意報が発令され、「海には絶対に近づかないでください」とアナウンサーが緊迫した声で繰り返している。

店内に一瞬で緊張が走る。 間髪入れずに、私のポケットの中のスマホも震えた。妻からのLINEだった。

『津波注意報が出てる!危ないから絶対にすぐ帰ってきて!!』

一分の隙もない、完全なる撤退命令である。 この状況での安全第一の判断に迷いはなかった。エサを買うのをやめ、大人しく回れ右をして自宅へ引き返すことにした。

津波

――しかし、世の中には上には上がいるものである。

私が店を出ようとしたとき、レジで平然とお会計をしているベテラン風の釣り人がいた。 その腕には、カチカチに凍った大きな「オキアミブロック(コマセ用のエサ)」がしっかりと抱えられていた。

アラートが鳴り響く店内で、彼は何事もなかったように支払いを済ませると、そのまま意気揚々と海の方へと車を走らせていったのだ。

「いや、あの状況でこれから釣りに行くのか……!?」

バックミラーに映る彼の車を見送りながら、私は色々なことを考えた。

早期退職で得られた、一番の贅沢

もし、これが会社員時代で、数週間前から楽しみにしていた「貴重な休日の1日」だったとしたらどうだろう。 私も『せっかくここまで来たんだから、ちょっと様子を見るくらい……』と、あのオキアミの彼のように、よからぬ色気を出してしまっていたかもしれない。

だが、今の私には有休消化中、これからの退職生活のたっぷりとした時間がある。

「まあ、海は逃げないし、また今度状況が良いときに来ればいいや」

そう思って、何の未練もなく素直にハンドルを自宅へ切れたとき、あくせくした現役時代から一歩抜け出せたような、早期退職の最大のメリット(心のゆとり)をじんわりと実感した。

帰宅後、妻から「早かったね!」と迎えられ、2人で自宅で食べる昼食は、どんな釣果よりも価値があるように思えた。


普段は妻が使っている汎用タックルです。色々な釣りに使えコスパが良いのでおすすめです。